むかーし、むかし。
海と山のほとり、奥京都の里山で、養子に入った男がおった。
「後継ぎ」なる男は、そりゃあたいそう大事にされた。
村人のこまりごとにも男は、こころよう手を貸してやった。
男の名を「勘兵衛」。だが、家のしごとはなぁんもせなんだ。
大酒くらうはいつものしごと。
七人の子をみながら、妻のタミがなんもかんもやりこなした。
「養子ゆえにさみしかろう」、と大八車ひくタミは、毎晩酔ひつぶれた男をむかへにいった。
タミはたいそう働き者で、文句ひとつ言わなんだ。
なにがそんなにおかしかろう。不思議に思うた男は、ある日タミと野良しごとにでた。
ようけはたらいて、タミのこさえたにぎりめしをほおばった。
「うまいやろ」めしのほんまにうまいこと。
それから勘兵衛は、タミのこさえたにぎりめし、ぎょうさんもってはたらいた。
山に分け入り水引いて、庭に立派な築山もこさえた。
小さい手から大きい手、子らとおんなじにぎりめし、ようけ食うてようけ笑うた。
ええ土とええ水からできた米のつぶのうまいこと。
はたらきもんのタミと勘兵衛の絶品にぎりめし、きょうもぎょうさん食べとくんなはれ。
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